百年続きますように『ハナミズキ』―大陸のリアリズム

私の耳にずっと引っかかっていたのは、「果てしない夢がちゃんと終りますように」というセリフと「君と好きな人が百年続きますように」だった。
夢が「叶いますように」ではなく、なぜ「ちゃんと終わりますように」なのか？
確かに、果てない夢が叶うなんて僥倖に近くて、「終わる」というのは叶った時にも使えるし、叶わなくても別の夢へと昇華したり、それはそれとして納得できたという場合でも使える。むしろその方が多いのだから、「夢がちゃんと終わる」というのは（今風の応援ソングのフワフワした空虚な歌詞には無い）リアルな言葉で好きだった。
そして、もう一つの「？」
君と好きな人が「永遠に続きますように」ではなく、なぜ「百年続きますように」なのか？
これは腑に落ちないままだった。

〇中国・岳陽での結婚式で

三年前、中国で友人ヤンの結婚式が行われた。
ヤンの生まれ故郷、湖南省岳陽市は中国南部にあり、昔「楚」と言われた地域－そう、四面楚歌の楚ーで、洞庭湖と岳陽楼で有名な古都である。私も招待されて中国に行ったのだった。
中国の結婚式ーまず、そのド派手さには驚かされた。式場も衣装も、赤を基調とし、そこに金銀が添えられるまばゆい色彩。そして人数たるや、親戚や友人知人、近所の人たち、300人を招いての大盤振る舞いである。自由度の高さもハンパない。客の服装はフォーマルから普段着、ジャージ姿（ほんとにそう！）まで実に多種多様で、時間になったら勝手に入場して、勝手に帰る（と私にはそう見えただけで、実態は違うのかもしれないけど）というユルさで、みんなが笑顔で美味しい食事とお酒を飲みガヤガヤしゃべる、といった和やかな大宴会なのである。

最初に式場に入った時のことだ。
真紅の壁一面の所々に金文字でめでたい言葉が書いてある。
そこに「百年好合」という文字があった。
百年好合・・二人末長く添い遂げますように・・
それを見た時に、「ああ、そうか」とあの疑問がするすると氷解したのだった。
「百年」って、それを永遠と考える中国のリアリズムなんだな～と。永遠、永久なんて遙か過ぎて、把握しきれないもん。百年なら頑張れば把握できるギリギリのラインだ。なるほどなぁ。
（もちろん、かつては人の平均寿命は50歳か60歳。百年というのはとてつもなく長い年月だったに違いないが・・。それにしても）

一青窈は台湾人の父と日本人の母との間のハーフで、子供時代を台湾で過ごしている。「百年続きますように」という言葉は漢文化のもつリアリズムなのだろうなぁ、と思うのである。
父は台湾の五大財閥の一つ、顔（がん）一族の長男。「台湾　顔一族」で検索すると一青妙（一青窈の姉上）のブログがヒットする。それによると、もともと顔家は中国福建省の出身で、日本占領下に台北・九份の金鉱経営で財を成したという。金山王と呼ばれた祖父は、しかし、戦後、台湾の二、二八事件の戦犯とされ、六万坪超の土地を政府に没収されるなど、ブログには顔一族の興亡の歴史が書かれていた。祖父の名誉が回復されたのはそれから七十年も経った最近のことであるらしい。

それに加え、一青姉妹がまだ幼い頃、父上は病死され、八年後には母上もまた病死されている。顔家長男としての（想像を逞しくすれば）志半ばで亡くなる父の無念、そして娘たちとの別離という父母の悲しみはいかばかりだっただろう。

そんなことを思うと、『ハナミズキ』という歌は、果てない夢が「ちゃんと終わる」人生を生きるのだよと。お前たちと未来の子供たち、100年の幸いを自分たちは見守るよと。去りゆく親のいまわの祈りを歌い上げた歌であるように思われてくるのだ。

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「百年続きますように、は、大陸のリアリズムと考えていい？」と問うたら「いい」と言ってくれたヤンは、ついでにこんな話もしてくれた。
「子供が誕生すると、日本では百日目に「お食い初め」をするでしょ。あれは中国から来た風習なの。この百日というのも、「この子の命が百年続きますように」っていう願いが込められたものなのよ」と。

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